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平沢進 ソロアルバム(+核P-MODEL)感想

今回の記事は↓の記事に引き続き、平沢進に関して語っている記事になります。

平沢進を全く知らない人は↑の記事と合わせて読むと分かりやすいかと思います。

 

私の知人の方、もしくは前回の記事を読んで下さった方ならご存知かもしれませんが、私はここ2年ぐらいで平沢進というアーティストの曲に深くのめりこんでおります。ついこの間行われた無観客ライブ「会然TREK 2K20▼04 GHOST VENUE」もチェーンソーにつられてアーカイブを視聴したばかりです。QUITの演出は何回見ても鳥肌が立ちます。

当然音楽CDも順次買い続けており、先日ついに氏の出しているソロアルバム13枚、そして事実上のソロアルバムである核P-MODEL*1のアルバム3枚の計16枚を全て買い揃えました(リアレンジアルバムを除く)*2。今回の記事はそれぞれのアルバムに対する私の所感とか好きな曲の話とかを書き連ねたものになります。

 

各項目の構成は以下の通りです。

アルバム名(発表年)-そのまんま、核P-MODEL名義の曲はここに表記します

人気の曲-アルバムに収録されている中で特に人気が高いと思われるものを2曲独断でピックアップしたもの

好きな曲-上記2曲を除いて個人的に好きな2曲(注1:ここに入っている=マイナー曲、という訳ではありません)(注2:上記の人気の曲が好きじゃない訳でもありません)

感想-アルバム全体の印象をメインに雑記など

 

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時空の水(1989年)

人気の曲: ハルディン・ホテル , 金星

好きな曲: デューン , フローズン・ビーチ

 

記念すべき初ソロアルバムです。平沢進の音楽の特徴は人によって様々な言葉で表せると思いますが、このアルバムではそんな中でも「奇妙」という表現がしっくりくる印象があります。変わった音などは(あまり)使われていないのにどこか普段耳にする音楽とは位相が異なっている感覚、と言えばいいのか、とにかく何処か「変」でありながら心地よい、そんな作りになっていると感じました。上述した「金星」をはじめとして、比較的落ち着いた音使いがの曲が多いのも特徴的です(一部除く)。

 

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サイエンスの幽霊(1990年)

人気の曲: 世界タービン , 夢みる機械

好きな曲: フィッシュ・ソング , QUIT

 

平沢進の音楽に対する狂気的な印象を確固たるものにした(してしまった)のはこのアルバムだと思っています。尤もこのアルバム自体がマッドサイエンティストをモチーフにしている(らしい)ので思惑通りとも言えます。収録曲に音楽的な共通点はあまり無いように感じますが(歌詞は共通してぶっ飛んでいる)、それぞれの曲が全く別のベクトルに尖っているので、全ソロアルバムを通してもトップレベルにインパクトの強いアルバムです。

 

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Virtual Rabbit(1991年)

人気の曲: バンディリア旅行団 , ヴァーチュアル・ラビット

好きな曲: 山頂晴れて , 太陽の木

 

全ソロアルバムの中でも相当に上級者向けじゃなかろうかと個人的に思っている一枚です。他のアルバムと比較しても奇天烈な曲が多く(歌詞だけではなく音楽的な意味でも)、初めて聴く際には混乱すること請け合いです。キャッチーな曲はあまり多くないですが、その分ひとたび心に食いついたならば深く突き刺さってそうそう抜けなくなるような力強い魅力を有した曲が多いです。上には挙げていませんが「UNDOをどうぞ」は相当の意欲作なので一聴の価値ありです。

 

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AURORA(1994年)

人気の曲: オーロラ , 舵をとれ

好きな曲: 力の唄 , 広場で

 

最初に聴いた時のインパクトこそ控えめなものの、何度も聴いていくうちにどんどん深みにハマっていく、いわゆる「スルメ曲」的な曲が多い印象があります。最も作業用BGMに向いているアルバムとも言えそうです。あまりパワフルな音源や特徴的な音源が使われておらずシンプルな伴奏となっているのが理由の一端でしょうか(個人的にはこの飾らない音源も好きです)。同様の理由につき、じっくりとボーカルを楽しむことができるのも特徴です。

 

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Sim City(1995年)

人気の曲: Archetype Engine , Lotus

好きな曲: Sim City , 環太平洋擬装網

 

同名のゲームとは特に関係ありません「タイショック」により氏の音楽性が大いなる影響を受けた転換点に位置する一枚であり、アジアンでエスニックな雰囲気とパワフルな歌唱が同居する曲の数々はまさに圧巻の一言です。平沢の音楽を形容する際にたまに用いられる「ラスボスみたい」というフレーズがありますが、このアルバムを聴いているとその感覚が理解できるような気がします。先に挙げた特徴に隠れ気味ですが、何気にテクノ的音使いが多いのも気持ちいいです。

 

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SIREN(1996年)

人気の曲: サイレン *Siren* , Nurse Cafe

好きな曲: Siam Lights , Mermaid Song

 

同名のゲームとは特に関係ありません前作で大いに変異した音楽性の余韻が未だ色濃く残っている作品です。しかし、前作がパワフルで壮大な曲がメインだったのとは対照的に、本作は全編を通して穏やかで優しい曲調がほとんどで(一部テンション高い曲もあるけど)、また味わいが異なります。何となく夜に聴きたくなるような曲調、というのが素直な感想です。1つの曲を2分割する、アカペラを導入する、曲同士をシームレスに繋ぐ等の挑戦的な試みも多いため、アルバム単位で聴くことを強く推奨します。

 

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救済の技法(1998年)

人気の曲: TOWN-0 PHASE-5 , 庭師KING

好きな曲: 万象の奇夜 , 橋大工

 

平沢進ソロの中で最高傑作との声もある名盤です。とにかく収録曲が名曲揃いで、初心者に1枚勧めるならこれ、という人も多いようです。私個人としても本作は大好きで、評判通りの名曲揃いなのは勿論、その曲調が多岐に渡っているのも特長だと思います。深淵を覗いているようでありながら開けた空のようでもある、あらゆるベクトルを向いた音が詰め込まれた非常に満足度の高いアルバムです。平沢の曲に特有のコーラスや意味を含まない言葉(ヘーイヤイー,ハイホー等)がふんだんに使われているのも嬉しい限りです。

 

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賢者のプロペラ(2000年)

人気の曲: 賢者のプロペラ-1 , ロタティオン (LOTUS-2)

好きな曲: 円積法 , 達人の山

 

錬金術というコンセプトが根底にある作品で、アルバム全体を通して曲調にも統一感が感じられます。錬金術というテーマに由来する妖しさや難解さのような雰囲気とは別に、熟成されたエスニック風の音使いや、空の下で歌っているような開放感のある歌声も印象的に感じました。その統一感ゆえ、どれか1曲でもハマれば他の曲も自然と好きになっていくことでしょう。

 

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BLUE LIMBO(2003年)

人気の曲: RIDE THE BLUE LIMBO , 高貴な城

好きな曲: CAMBODIAN LIMBO , 狙撃手

 

全編を通してどこかダークで頽廃的な雰囲気の漂うアルバムです。何故この作風に至ったのかは各々で調べていただくとして*3、ただひたすらに暗い曲調なのかと言えばそうでもなく、暗闇の中に一筋の救いの光を見出すような希望を纏った曲や歌詞もあり、まさに天と地の間の辺獄(LIMBO)のようなアルバムという印象です。深く考えなくても、シンプルにカッコいい曲が多いので気軽に手を出していいと思います。

 

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ビストロン(2004年,核P-MODEL)

人気の曲: Big Brother , アンチ・ビストロン

好きな曲: 崇めよ我はTVなり , 暗黒πドゥアイ

 

P-MODEL名義のアルバム1作目です。その名義通りP-MODEL時代に回帰したようなテクノな音使いと前作から持続するダークな雰囲気が特徴的です。歌詞に関しても直接的で刺々しい表現が心持ち多めになっており*4、平沢本人の強い反骨精神とエネルギーが込められているのを感じさせる作りになっています。歌詞を抜きにしてもテクノ特有のノリのいいサウンドがクセになり、お手軽にテンションが上げられます。

 

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白虎野(2006年)

人気の曲: 白虎野 , パレード

好きな曲: Σ星のシダ , 確率の丘

 

曲の物語を強く感じるアルバム、というのが個人的な総評です。それぞれの曲の圧倒的な世界観と情景描写という点でもそうですし、アルバム全体が「分岐」と「確率」をテーマにしており*5、そういう観点を持って曲を聴いてみると、聴いた人それぞれの中で独自のストーリーが浮かび上がってくると思います。音楽的な特徴としては、厚みと壮大さのある音使いを根底に持ちながら、所々に民俗音楽的なアクセントが効いていて満足度が高いです。

 

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点呼する惑星(2009年)

人気の曲: 王道楽土 , 聖馬蹄形惑星の大詐欺師

好きな曲: Mirror Gate , Phonon Belt

 

どの曲も音の幅が広いと感じます。これは音源に厚みがある、というのとは少し違っていて、それぞれの曲の中で多くの種類の音(楽器,音源,メロディ等)が使われており、その組み合わせで音に奥行きが生まれ、俗っぽい言い方をすれば「耳が幸せ」という感覚になります。エスニックな雰囲気はだいぶ鳴りを潜めており(ディレイラマはいるけど)、無国籍な(≒万人に通ずる)曲調という印象もあります。各曲がそれぞれ持つ没入感とビターな雰囲気たっぷりの世界観も相まって、個人的には「救済の技法」と並ぶ名盤だと思っています。

 

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現象の花の秘密(2012年)

人気の曲: 現象の花の秘密 , 冠毛種子の大群

好きな曲: 華の影 , 脳動説

 

またしても音楽性は大きく変化し、音源からしてオーケストラに大きく寄せた壮大なものになっています(正確に言えば2009-2010年頃の「還弦主義」*6からだけど)。曲調もあまりクセのない正統派といった色合いが強いですが、仰々しい歌唱と迫力ある音源による「圧」は非常に強く、平沢進本来の魅力も余すことなく堪能できます。何気に歴代の中でもハイトーンボイスの比率が高いのも嬉しいポイントです。

 

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гипноза(2013年,核P-MODEL)

人気の曲: 白く巨大で , Timelineの東

好きな曲: 排時光 , Dμ34=不死

 

Gipnoza(ギプノーザ,「催眠」の意)と読みます。アルバムのタイトル同様難解な曲が多いです。特に何の説明もなく出てくる多くの固有名詞が特徴で、これを理解しづらいと取るか想像の幅が膨らむと取るかは人次第です。音楽的な話としては、全編を通して怪しげな実験施設*7のような雰囲気が漂っていて、非常に統一感があります。だからと言って量産的という訳でもなく、多種多様な怪しさに蹂躙されることでしょう。最後の曲「Timelineの東」だけは開放的な曲調なのも余韻が爽やかになって良いです。

 

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ホログラムを登る男(2015年)

人気の曲: アディオス , ホログラムを登る男

好きな曲: アヴァター・アローン , 回路OFF回路ON

 

ソロ名義としては最新のアルバムです(2020年7月現在)。「突弦変異」より続くオーケストラ的な音源はそのまま継承しつつ、電子音やギターといった元来用いられてきた技法も復活し、結果として今までのどのアルバムともまた違った癖になる音楽となっています。映画やゲーム等の劇伴が好きな人はハマるんじゃないでしょうか。また個人的な見解ですが、このアルバムの歌詞は比較的解釈がしやすい内容だと思っています。大仰な語彙の裏に隠された真っすぐなメッセージを紐解けると平沢の音楽が一層好きになること請け合いです。

 

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回=回(2018年,核P-MODEL)

人気の曲: 遮眼大師 , HUMAN-LE

好きな曲: TRAVELATOR , 幽霊飛行機

 

P-MODEL最新アルバムにして平沢進が世に出した最新の作品でもあります(2020年7月現在)。核Pらしいテクノな音使いに加えてギター要素が満載されており、結果として閉塞感と浮遊感、ダークさとクリアさが同居したような形容しがたい曲調に仕上がっています。どこか宇宙を感じる曲調、というのが率直な感想です(ジャケットにもそれっぽい絵が書いてある)。最後の曲である「HUMAN-LE」からは平沢から人類に対する応援歌のような意趣が感じられ、胸が熱くなります。

 

 

以上が16枚すべての感想です。予想はしていましたがめちゃくちゃ長くなってしまいました。読んで下さった方はお疲れ様でした。

これだけ長いキャリアの中で音楽性がアップデートされ続けているのが凄まじいと思います。ついでに言えば世間的な流行とは完全に独立し続けているのも特徴的で、昔の曲と最近の曲を比べてもどちらかに古さを感じることがないのも氏の唯一無二の足跡なんだなと思うと感慨深いものがあります。僕はファン歴2,3年の超絶にわかですけどね

 

冒頭の注釈にも書いたとおり、リアレンジCDやライブCDの類にはまだ手を出していません。とりあえず次は「SWITCHED-ON LOTUS」を買いたいなと思っております。

 

ここまで読んで頂いてありがとうございました。数年後またP-MODEL編で会いましょう。

*1:P-MODELはかつて平沢進が所属していたバンドで、核P-MODELは簡単に言えば1人でやってるP-MODELという感じ

*2:DL購入も含むので物理媒体でコンプリートした訳ではない

*3:「殺戮への抗議配信」で検索すると少し事情が分かるかも

*4:「動かずに横たわる二度と息せぬヒトの絨毯」とか「ショックと憎悪の麻薬を絶え間なく届けよう」とか

*5:オタク的に分かりやすく言えば多分「シュタゲ」みたいなこと

*6:今までの曲から抜粋して弦楽器アレンジを施すプロジェクト

*7:CD付属のブックレットにもそれらしいショートストーリーが書いてある